身勝手なあいつ【5】
充に連れられるがまま辿り着いたのは、オレの部屋・・・ではなくて。
部屋の造りは似ているけれど、置いている家具やベッドは見覚えのないものだった。
「あれ・・・?」
ここが充の部屋だと気付いたのは、数十秒が経過してからだった。
しかし今のオレには初めて入った部屋を観察する余裕など全くなく、充に誘導されるままにベッドへ横たわった。
少し楽になってふっと息を吐き出す。
「ん・・・」
だが、アルコールで体温が上がっているのか今度は急に暑くなってきた。
汗をかき始めそれが気持ち悪くて身じろいでいると、ベッドの淵に腰を掛けていた充が顔を覗き込んできた。
「暑いのか。服、脱がせてやるよ」
そう言うなり、オレが着ていたパーカーのファスナーに手を掛ける。
(なんだ、結構優しいところもあるんだ・・・)
ぼんやりとそんなことを考えている間にも、充は手際よくオレの服を脱がせていく。
いつの間にかズボンまで脱がされていて、気付いたときにはTシャツと下着だけの姿になっていた。
少し恥ずかしいと感じるものの、口を開くのも面倒でそのまま充のすることに身を任す。
うっすらと目を開けると、全てを終えた充がベッドに腰を掛けこちらを見ていた。
「楽になったか?」
「うん、涼しい・・・。ありがと」
酔いが回って思考が回らなくなったオレは、今の状況を作り出したのが充本人だということも忘れ、呑気にお礼を言った。
充はニヤリといつもの、何かを企んでいそうな笑みを浮かべる。
「礼を言うのはまだ早いんじゃねえの?」
「それ、どういう意味だ・・・?」
急に不穏になった空気にオレは眉を寄せた。
「ん?男が酒を飲ませて酔わすってことは、つまりこういう意味だよ」
言いながら、ギシリとベッドを軋ませてオレの体を跨ぐように膝立ちになる。
そうすると見下ろされる形になり、無意識に恐怖を覚える。
充はオレの着ているシャツを捲り上げると、あらわになった胸の飾りを指で撫でた。
「ちょ、やめろって・・・」
くすぐったくて身を捩るが、充はその手を止めない。
普段気にもしない場所を他人に触られるのは、変な気分だった。
いくら触られてもくすぐったいだけのオレの反応に、充は手を止めるとつまらなそうに呟いた。
「まだここは感じないか」
「―は?」
なんのことだか分からずに充を見上げるが、オレの問いには答えずにそのまま言葉を続けた。
「慶太。お前さぁ、今日部屋に入ったときエロ本とかなかったけど、もしかしてまだ一人でしたこともないのか?」
(一人でしたこと・・・?)
頭の中で言葉を反芻しその意味を理解すると、オレはアルコールで赤くなっていた顔を更に真っ赤にさせた。
またそのネタでからかうつもりなのか、こいつは。
「そんなの、あんたになんか教えねえよっ」
かっと怒鳴ってそっぽを向くと、充は「ふうん」と含み笑いをした。
その様子がまた癇に障って睨みあげる。
「・・・なんだよ」
「その言い方じゃ、まだってわけだな」
「なっ・・・なんで」
知ってるんだ―咄嗟にそう言いかけて慌てて口を紡ぐ。
実際、充の言ったとおりだった。
そういう行為があることを知ったのは、つい数ヶ月前。
性のことに興味を持ち始めた友人たちと、そういう話をしていたときに聞いた。
好奇心から一度だけしてみたが、後で悪いことでもしたような罪悪感に苛まれ、あれ以来ちっともしていない。
それに、みんなが言うほど気持ちよくなかったのだ。
だからもしかして自分は病気なんじゃないだろうか、そんな不安が芽生えて余計に行為を拒絶した。
そんなことがあったから、オレにとってその話題は一番触れられたくないものだった。
「大体、別にオレがしててもしてなくても、あんたには関係ないだろ?」
「オレとお前の仲じゃねぇか。普通、弟が知らないことは兄貴が教えてやるのが普通だろ?だからオレが仕方を教えてやろうと思ってさ。―な、弟思いだろ?」
「アホか!どこが弟思いなんだよ」
(単にあんたが楽しんでるだけなんじゃねえの)
「まぁちょっと黙ってろよ。今、気持ちよくしてやるからさ」
充の左手がオレの肩口を押さえ動きを止めると、右手が下着へと・・・つまり股間の上へと移動する。
まだ柔らかいそれを布越しに、包み込むように揉みしだいた。
さっきの言葉が冗談だとばかり思っていたオレは、その行動にビックリして体を固まらせた。
「なにしてんだよ。やめろ・・・って」
オレの抗議なんて完璧に無視をして充は手を動かした。
その間も視線はずっとこっちに向けられていて、まるでオレの様子を見て楽しんでいるかのようだった。
(ほんっとに・・・悪趣味なやつ。オレにこんなことして楽しいのかよ)
絶対こんなやつの言いなりになんてなるもんか。
きゅっと唇をかみ締めて快感に流されないようにする。
だが、快感を知らない体にとって、充の手はあまりに巧みすぎた。
「はっ・・・あぁ、んっ」
引き結ばれていた唇は空気を求めるように薄く開き、漏れる声を抑えることもできずにいた。
押し返すはずだったオレの右手も、いつの間にかしっかりと充の腕を掴み、離さないでいる。
充が与えてくれる快感は自分でしたときとは比べものにならないぐらい強烈で、もう快感を追うことしかできない。
充は器用に下着を脱がすと、ピンと立ち上がったそれを直に触れてきた。
直接的な刺激にまた息が上がる。
茎を擦りあげ、先端を指先でまわすように撫でられるとそれだけでイッてしまいそうになる。
「あ、んんっ・・・」
「―まだイクなよ?」
囁くような低い声にいまさらながら充の存在を実感し、自分の醜態を見られているのかと思うと恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
しかしこの状況では逃げ出すどころか、抵抗する気力すら残っていない。
充はくちゅりといやらしい音を立てながらオレ自身を刺激し、同時にぷつりと立ち上がっている胸の突起を口に含んだ。
吸い上げられ舌で転がされると、さっきまではくすぐったいだけだったはずなのに、甘い快感が体に走る。
「な、なんで・・・っ?」
びくりと跳ね上がった反応に満足したのか、充は更に追い討ちを掛けるように今度は反対側に指を伸ばす。
執拗に刺激を与え続けられたそこは、開放されたときには真紅に色づいていた。
「感度いいんだな、慶太。もう乳首でも感じれてんじゃん」
そんな言葉は聞きたくなくて、ふるふると頭を振った。
「やだっ・・・。もういい加減やめろよっ」
ぎゅっと瞳を閉じると、あまりの気持ちよさに出た涙が零れ落ちて頬を伝った。
充はそれをぺろりと舐めると、先走りでぬるぬるになった先端を指先で潰した。
「いまさらなに言ってんだよ。ここをこんなにしておいて。これじゃ放っておいたほうが辛いぜ?」
「っ。じゃあ自分でするからっ・・・。もう、触らないでくれ」
充に触られると自分が自分でなくなってしまいそうで怖い。そんな思いで言ったのに、充は楽しそうに双眸を光らせるととんでもないことを言い出した。
「へーえ。オレの前でオナニーしてるとこ見せてくれんの?」
「・・・っな」
目の前の男が悪魔に見えた。
ひとりでしているところを見せろだと?
人をここまで苛めて辱めて・・・その上そんなことをしろという充。
こんなやつが兄貴かと思うと悔しくて、バカらしくて、自然と涙が零れた。
泣き顔を見られたくなくて両腕で覆うと、充が戸惑ったように身じろぐのを気配で感じる。
「・・・慶太」
名を呼びながら、やんわりとオレの両腕を外そうとする。
「・・・っ触んなっ」
「慶太、わりぃ。ちょっと苛めすぎた」
急に優しくなった声色にそっと腕を外すと、充は小さな子供をあやすようにオレの額へ唇を押し付けた。
「今イカせてやるから」
オレの体を抱きしめると、ずっと張り詰めたままだったものをやんわりと握る。
そして一気にオレを快感の坩堝へ突き落とした。
突然やってきた激しすぎる快感に、オレは充の背中に必死でしがみつく。
「あっ、あぁ・・・っ。んンっ」
「―慶太。充って呼んでみな」
もうなにがなんだか訳が分からなくて、言われるままにその名を呼ぶ。
「充・・・っ。充・・・」
「いい子だ」
ちゅっとこの場に相応しくない啄ばむようなキスをオレの唇へ落とすと、そのまま手の速度を速めてオレを一気に頂点へと昇りつめさせる。
「や、充・・・。あ、ああぁっ・・・!」
白濁の液を充の掌へ吐き出すと、オレはそのまま意識を失った。
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