七年目の熱情【5】 ―まだ、駄目だよ― (直哉視点)
二杯目のコーヒーをゆっくりと飲みながら、ふたりは話をした。
学校のこと、仕事のこと、最近の趣味、昔の話―。
一成は話し上手で聞き上手だ。
会話は飽きることがなく楽しくて、ふたりの間に七年という別々の歳月が流れていたのが嘘のようだった。
「それでさ、あのときオレが怖いなんて言うから一成が外でずっと待っててさ・・・」
「あの時は本当参ったね。寒いし、直哉のこと放って帰ってやろうかと思ったよ」
「あ、ひでぇー」
あははと声を上げて笑う。ふとこんな風に心の底から笑ったのはいつ振りだろうかと考えた。
一成がいるだけで色付くオレの世界。
(やっぱりオレ、一成が好きだ・・・)
確認するように心の中で自分の気持ちを言葉にする。
「・・・また向こうに帰るのか?」
再会した途端、また離れるのはあまりに辛い。
ぽつりと漏らすと、一成がカップをソーサーに置きこちらへ向き直った。
「いや。一旦戻るけど、またすぐにこっちへ帰ってくるよ。来年早々からでも新しい事務所を始める予定だからね」
「―その事務所ってこっちなのか?」
「そうだよ。ここからだと電車で三十分もかからないかな」
「・・・そっか」
素っ気無い返事をしたが、内心嬉しくてどうしようもなかった。
これからは近くに一成がいるのだ。
オレが頼めば、今日みたいに話をすることも出来るかもしれない。
昔みたいにとはいかないが、こうして一成に会えるかと思うと、歓喜で胸が一杯になった。
顔にも自然に笑顔が出てしまい、自分でも頬が緩むのが分かる。
にこにこと機嫌の良い表情を浮かべていると、何故か一成が困ったように片眉を下げた。
「・・・そんな顔されると、すぐにでも手に入れたくなるんだけどな」
「え、なんて?」
低く呟かれた声が聞き取れなくて聞き返す。
と、そのことに集中していたせいで手に持っていたカップがぐらりとバランスを崩して中身が零れた。
幸い時間が経っていたため熱さは感じなかったが、手首から腕にかけてシャツが見事にカフェオレ色に染まってしまった。
「うわ、最悪」
立ち上がって洗面所へ向かおうとすると、手首を一成に掴まれた。
「・・・なに?」
急に触れられたことへの戸惑いを隠すことも出来ずに尋ねる。
「拭ってあげる」
一成はちらりとこちらに視線を向けると、握ったままのオレの腕へ顔を近づけた。
ぺろりと舌で舐め上げられる。
その様子に視線を奪われた。
「ちょ、一成・・・っ」
なにがなんだかわけが分からない。
咄嗟に腕を引っ込めようとするが、一成はそれを許さなかった。
赤い舌が肌の上を這う様が妙にいやらしくて、そこから視線を逸らすことができない。
ズクン、と腰に甘い疼きが走る。
「・・・っ」
ヤバイと思った。
好きな男にそんなことをされて、感じないわけがなかった。
冗談にしては、あまりにきつすぎる。
「一成。いいから、オレ自分で洗ってくる・・・」
押しのけようとした左手を掴まれ、ぐいっと強い力で引き寄せられた。
ソファに腰掛ける一成の膝の上にのしかかるような体勢になる。
そのまま一成は器用にオレのシャツの釦を外した。あらわになった肌に顔を埋める。
「あっ・・・」
口唇は胸の突起へと辿り着く。
柔らかな感触に包まれたと感じたのは、そこを口に含まれたからだった。
吸い上げられ、同時にわき腹をするりと撫で上げられる。
それがセックスの前の愛撫だとは分かった。
でも、なんで一成がオレにそれを・・・?
思いを表すように視線を投げかけると、思いもかけず熱い眼差しがそこにはあった。
「直哉。君がほしい」
直接的な言葉に神経までもがかっと熱くなる。
「・・・っ」
急な展開に頭が付いていかない。
なんで、どうして――頭の中に疑問符が渦巻く。
それでも・・・。
(駄目だ、なんて・・・言えるはずがない)
様子を伺うように見つめてくる一成に、オレはゆっくりと頷いた。
満足そうに微笑んだ一成は、再び胸に舌を這わせた。
一成がオレを抱く理由は分からない。
でも、この瞬間だけはそれでもいいと思った。
オレはずっとずっと好きだった男に抱かれる幸せに酔い、そして身を任せた。
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