七年目の熱情【8】   ―心配― (一成視点)


「え、一成・・・?」
従業員専用の扉から出てきた直哉は、路肩に停めてある国産車に寄りかかるようにして立っている一成の姿を見つけるなり、驚いて声を上げた。
一緒に仕事を終えたアルバイト仲間たちが何事かと目配せしている。
直哉は「ごめん、先帰ってて」と断ると、小走りで一成の元へやってきた。
「邪魔だったかな」
「えっ、ああ、あいつら?別にいいんだよ。たまたま終わった時間が一緒だっただけで、特に約束してたわけじゃないから」
見上げてくる直哉の頬が心なしか赤いのは、きっと気のせいではないだろう。
「それより・・・急にどうしたんだ?」
「ちょうど前を通りがかったら、直哉が働いているのが見えたからね。そろそろ閉店だろうと思って待ってたんだ」
嘘だった。
たまたまではない。直哉がこのカフェで働いていることは随分前に調査員から報告を受けていたし、いつもこの時間で上がっていることも確認済みだった。
しかしそれはおくびにも出さず「運が良かった」と笑うと、素直な直哉は疑うこともせずに嬉しそうに頬を緩めた。
人当たりの良い直哉は人から敵意を向けられることがないようで、疑うということをあまり知らない。
そこがまた一成の気に入っているところでもあった。
「もしよかったら、これから一緒に食事でもどう?」
自然な仕草で直哉に車へ乗るように促しながら聞く。
直哉はぱっと笑顔を浮かべると、大きく頷いた。
「うん、食べる」
一成は自分も運転席へ乗り込みながら、素直な反応にくすりと笑った。
エンジンをかけると滑らせるように車を出す。
ハンドルを握りながらもちらりと横に座っている直哉の様子を伺うと、さきほどとは打って変わって考え込むような表情を浮かべて窓の外の風景を眺めていた。
直哉と会うのは、再会したあの日以来、一週間ぶりだった。
その間連絡ひとつしなかったのは、仕事が忙しかったせいもあるが、なにより直哉の中で自分の存在を大きくさせるのが目的だった。
今、直哉が浮かない表情を浮かべているのは、きっと気まずさや羞恥、不安などがないまぜになっているからだろう。
一成には直哉の気持ちが手に取るように分かるが、今ここでそれを本人に聞く気はなかった。
信号待ちのため車をとめると、一成はすべてを知っているくせに白々しい質問を投げかける。
「ところで、直哉はあそこでバイトして長いの?さっきも随分仲良さそうだったけど」
「んー?バイト始めたのは半年ぐらい前かな。けっこう同年代ばっかりだからさ。みんな割と仲良くしてるよ」
「そうか。さっきちらっと見たけど、結構女の子の従業員も多いよね。あの中に直哉の好きな子とかいないの?」
からかうような視線を送ると、直哉は慌てて反論した。
「な、そんなんいないよっ。・・・大体、一成には関係ないだろ」
後半は声のトーンが下がるが、それには気付かないふりをする。
「いや、お前も年頃だしね。私にとってお前は弟のようなものだから、そろそろ彼女ができないかと心配なんだよ」
“弟”という単語に直哉が少なからずショックを受けるのを、一成は見逃さなかった。
内心ほくそ笑みながらも、知らん顔をして会話を続ける。
「相談ならいつでも乗るからね」
「・・・心配なんて、余計なお世話だよ」
すっかり意気消沈してぷいと横を向いてしまった直哉にはなにも言葉をかけず、一成はそのまま目的の場所へと車を走らせた。
直哉の健気で可愛らしい反応に、気付かれないように口の端を上げる。
やはり自分の心を満たすのは、直哉しかいないと考えながら―。


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