七年目の熱情【9】   ―子供扱い― (直哉視点)


「美味しかった〜」
はぁ、と一息ついてもうこれ以上食べられないといったようにお腹に手を当てる。
一成が連れてきてくれたのはホテルの中にある、フランス料理店だった。
オレひとりじゃとても入れなさそうな雰囲気で、他の客たちも人目で上流階級といった感じの人たちばかりだ。
目の前の男はこんな場所でも堂々としていて、とても似合っていた。
(やっぱり一成ってすげぇ・・・)
「満足してもらえたみたいでうれしいよ」
赤ワインを飲む一成は、それだけで絵になる。
「こんな上手いもの食べたの初めてってぐらい」
ナプキンで口を拭いながら答える。
出てくる料理やワインは厳選された高級品ばかりで、文句なく美味しかった。
「それはよかった。じゃあ、そろそろ行こうか」
一成はオレの顔を見て確認すると、椅子から立ち上がる。
一時間以上かけてゆったりと食事をし、会話も楽しんだが、物足りなかった。
もっと話をして、もっと一緒にいたかった。
もう帰るのかと思うと寂しくなる。
(・・・って仕方ないよな)
表情に出してはだめだと顔を引き締める。
一成の後ろをついてエレベーターへ乗った。
そこで一成が押したボタンを見て、不思議に思った。
「他に用でもあるのか?」
ランプが点灯しているボタンは最上階だった。もちろんロビーは一階にある。
どうしてかと首を傾げると、一成は振り向き当たり前のようにさらりと言った。
「部屋を取ってあるんだ」
「部屋・・・?」
一体どういうことだろうと思う暇もなく、エレベーターは目的の階へと辿り着いた。


一成が取っていたという部屋は、スイートルームらしく豪奢で広かった。
多分、オレには一生泊まることはないだろう部屋。
しかし今のオレにはこの部屋を楽しむ余裕はない。
目の前の男は一体何を考えているのだろう、それだけで頭がいっぱいだった。
「なにか飲む?」
一成の手にはブランデーのミニボトルがあった。
「いや、いらない」
首を横に振ると一成はそれを元あった場所へと戻し、オレが座るソファの隣へと腰掛けた。
何故こんなにも広いソファでわざわざオレの隣へ座るんだと、疑問に思うと同時に鼓動が早くなる。
今日、一週間ぶりに一成に会えてすごくうれしかった。
しかも偶然とはいえ、バイト先でオレが終わるのを待っていてくれたのだ。
一緒にご飯を食べたのも本当に久しぶりで楽しかった。
(・・・でも)
一成が自分をここに連れてきた理由が分からない。
もしかしてここは一成が仮住まいとして泊まっている部屋なのか。
それとも、単に飲みなおすためにこの部屋を取ったのか。
悶々と頭を悩ませていると、するりと肩に手が回ってきて驚きで顔を上げた。
すぐ近くに一成の顔があって、頬を赤くする。
「な、なに・・・?」
「部屋を取ってある、って言った私の言葉は覚えてるよね。これがどういう意味だか、分かるだろう?」
肩にあった手がそのまま滑り落ちて襟元から侵入し、素肌に触れる。
冷たい手の感触にゾクリと背筋を震わせながらも、必死に感覚に耐えようとする。
「ど、どういう・・・って」
(もしかして――)
「直哉は体はすっかり大人に成長したみたいだけど、中身はまだ子供のままなのかな」
一成はからかいを含んだ瞳でオレの顔を覗き込む。
その言葉には暗に先日自分を抱いたことが含まれていたのだが、子供扱いされて冷静さを失ったオレは気付くことができなかった。
「な、誰が子供だよっ!」
かっとして突っ掛かる。
「じゃあ、私がこれからなにをしようとしているか、わかるよね?」
言いながら一成の右手がオレの胸の突起を引っ掻いた。
嫌でもこれからなにが行われるかなんて分かった。
こくりと頷きながら、これではまるで前と同じだと考えていると、やはり一成もあのときと同じように満足げな笑みを刻んだのだった。


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